第5話 親から子へ。農業人のバトンをどう手渡すか。

森田:パソコンで売上げや計画を管理する体制まで持っていこうと話をして、今、色んなソフトを 調べてるところなんです。ただ真弓さん、パソコンと計算は駄目だから(笑)。
真弓:俺、できないもん(笑)。
森田:2人で経営者向きの研修に行った時、真弓さんはあくびしてて、こりゃ駄目だと思った(笑)
真弓:だって俺らは、おやじや学校や、農業関係の人から教わった事がすべてだから。 普通の農家で森田さんの言う太陰暦で栽培しようなんて人、普通いないよね。だけど柿も新月の時に 渋みが入るっていうし、生物は月と一緒のサイクルで成長するというのは何となくわかるわけ。満月の時は、 交通事故が多いとかね。データはないかもしれないけど、作物にもそれが確実にある。でも、暦通りに 資材を散布するのは難しい。
森田:要するに真弓さんはずっと一人、叩き上げで農業を広げてきた人だから、それを数値化する手続きが 面倒くさいんですよ。頭の中に地図があって作業の流れがあるから、自分で考えた方が早い。 ただし、今のままでは目標に手が届かない。課題としている改善点をちゃんとやれば、スコンと達成できるのに。
真弓:そういう話を聞くと、ムカッとくる(笑)。そんな簡単なことじゃないとこっちは思うわけ、 森田さんは言うだけですけど、こっちは実行しなきゃいけないだから。
森田:でも工場ができた時に必要な人数を計算から割り出したら、今その通りになってるじゃない。 真弓さんは経験でそこに行くけど、僕は数字で出しちゃう。
真弓:本当にそうだから、言いようがない。
森田:真弓さんも自分の頭の中を捨てないと新しい形にならないと分かってますよね。だから息子さんに シフトしようという相談を始めたんです。
真弓:まだまだ、農業始めて半年(笑)。息子はアメリカで農業を学ぶつもりだったらしいんだけど、 役に立たない。オランダに行った方が良かった(笑)。ただ息子は、なかなか自分の殻が破れないたちだったけど 積極的になってきたし、良かったなと思ってんの。
森田:跡継ぎが継ぎたくなるような、未来に夢がもてる農業をしていかないとね。
真弓:元をたどれば、俺は農業高校じゃなくて普通高校に行ったのがよかったのかな。熊本には、仲間で 百姓をやっている連中がいない(笑)。だから、人と発想が違うのかもしれない。農業高校に行ったら、 そういう仲間内で集まるじゃないですか。それがなかったんですね。
森田:だから僕の話が通じるんです。地元じゃ、真弓さんも異文化の方。
真弓:それはわからんけど、自分でやりたいと思う。そういうのが好きなんで。
森田:これからの農業をビジネスは、経営学や経理を勉強した上で、人を雇って栽培から流通まで構築する 発想を持たないといけないと思います。でも今の農協組織じゃ機能しないことがわかってきて、 どうしようかという時に、真弓さんと出会って扉が開いたっていうかな。真弓さんがコツコツと進化する姿を 横で眺めてると、あ、こういう感じで農業ビジネスにもっていけるんだなって、イメージができたんです。 それで新しい顧客も生まれました。スイートコーン農家さんがまさしくそうなんです。元は農業やってた人が 産業廃棄物業者になって、できる肥料を撒く畑が必要になって撒いたら耕せって話になって、 また、百姓始めたって人。
真弓:よそで働いたことがある人たちは、違った発想で百姓をとらえることができるし、 経営的にも従来のやり方じゃないものを考える。家族経営の農業は、親の方から子に伝えるから難しいんです。 親の方が経験も長いから、子どもは親の言いなりにならざるをえない。だから、親は、ある程度したら、 子どものやることに口出さない方がいいみたい。
森田:僕もいろんな農家さんと付き合って、後継者を任された若い人も何人か見てきて、 親が口出ししないほうがいいってことだけは、わかりました。
真弓:うまくいかないもん。親が口出ししたらね。